コラム

取引先1社への依存から抜け出す。売上の柱を分散する考え方

売上の多くを1社の取引先に頼っていると、その会社の発注が減っただけで工場の経営が揺らぎます。板金工場が取引先1社への依存から抜け出すために、今の売上の中身の見方、柱を増やす3つの方向、既存の取引先との関係を保ちながら進める手順を整理しました。

明るい板金工場の出荷場。種類の違う板金部品がパレットごとに分けて積まれ、奥で作業服の人がそれを見渡している後ろ姿

1社に頼る経営は、なぜ危ないのか

長く付き合っている大口の取引先があるのは、工場にとって心強いことです。毎月の仕事量が読みやすく、図面や品質の基準にも慣れているため、現場も回しやすくなります。

一方で、その取引先の事情は自社では動かせません。相手の製品が売れなくなった、生産を海外や別の工場に移した、内製に切り替えた。こうした理由で発注が急に減ることは、どの業界でも起きています。売上の半分以上を1社が占めていると、発注が2割減っただけで、工場全体の売上が1割以上落ちることになります。

もう一つの問題は、価格や納期の話し合いで立場が弱くなることです。「この仕事がなくなったら困る」という状態では、無理な納期や値下げの相談も断りにくくなります。依存から抜け出すことは、売上を守るためだけでなく、取引先と対等に話をするためにも必要です。

まず、今の売上の中身を書き出す

柱を増やす前に、今の売上がどこから来ているのかを数字で確かめます。直近1年分の売上を、取引先ごとに並べて、それぞれが全体の何割にあたるかを出してみてください。

あわせて、取引先ごとに次のことも書き出しておくと、次の一手が見えやすくなります。

  • どんな業界の会社か(産業機械、建築、電機、食品機械など)
  • どの加工が中心か(レーザー加工、曲げ、溶接、塗装、組立など)
  • 試作か量産か、1回あたりの数量はどのくらいか
  • 利益が残っている仕事か、忙しいわりに残らない仕事か

書き出してみると、「上位1社で全体の6割」「売上はあるが利益の薄い仕事が多い」といった実態が見えてきます。どのくらいの割合なら安心という決まった数字はありませんが、まずは上位1社の割合を少しずつ下げていくことを目標にすると、取り組みの進み具合を測りやすくなります。

売上の柱を増やす3つの方向

新しい取引先を探すといっても、やみくもに営業をかけるのは効率がよくありません。今の工場の強みを生かせる方向から考えます。

売上の柱を増やす3つの方向の図解。同じ業界の別の会社に今の実績を見せる、別の業界に同じ加工が使える仕事を探す、試作や小ロットなど得意な加工の受け方を広げる

1つ目は、同じ業界の別の会社です。今の大口の取引先と同じ業界であれば、求められる品質や図面の書き方に慣れており、これまでの実績をそのまま説明に使えます。いちばん始めやすい方向です。ただし、業界全体の景気が悪くなると、まとめて仕事が減る点には注意が必要です。

2つ目は、別の業界に今の技術を持ち込むことです。たとえば産業機械の筐体を作ってきた工場なら、同じような板厚と加工で、建築金物や店舗什器、電機の制御盤などを作れる可能性があります。業界が違えば景気の波も違うため、売上の安定につながります。

3つ目は、得意な加工の受け方を広げることです。量産ばかり受けてきた工場が、1個からの試作や小ロットを受けるようにする。曲げまでで止めていた工場が、溶接や組立まで請け負えるようにする。新しい取引先を探すと同時に、受けられる仕事の幅を広げておくと、声をかけてもらえる場面が増えます。

新しい取引先と出会うための動き方

方向が決まったら、実際に新しい会社と接点を作ります。板金工場でよく使われる方法は次のとおりです。

同業者や材料商社からの紹介を頼る。自社では受けきれない仕事や、設備が合わない仕事を回し合える同業者がいると、新しい業界の仕事に触れるきっかけになります。材料を仕入れている商社は多くの工場と取引しているため、「こういう加工ができる工場を探している会社がある」という話を持っていることもあります。日ごろから、自社が受けたい仕事を伝えておきます。

展示会や地域の商談会に出る。加工サンプルを並べて、実物で技術を見てもらえるのが強みです。出展しなくても、来場して発注側の会社の話を聞くだけでも、どんな加工が求められているかが分かります。

今の取引先の別の部署から仕事をもらう方法や、検索で見つけてもらうための準備については、板金工場の新規受注を増やす5つの方法と会社ページの書き方の記事で詳しくまとめています。

どの方法でも、「何でもできます」ではなく「この加工が得意で、こういう仕事を受けたい」と具体的に伝えるほうが、相手の記憶に残ります。

今の取引先との関係を壊さずに進める

柱を増やすときに気をつけたいのが、今の大口の取引先への対応を落とさないことです。新しい仕事を優先して納期が遅れたり、品質が下がったりすれば、今ある売上まで失ってしまいます。

新しい仕事を受ける前に、今の仕事量で設備と人にどれだけ余裕があるかを確かめておきます。余裕が少ない場合は、新しい取引先とは小さな数量から始め、少しずつ増やしていくのが安全です。

また、守秘義務にも注意が必要です。今の取引先から預かった図面や製品の情報を、新しい取引先への説明に使ってはいけません。加工事例として紹介するときは、取引先の了解を得たものか、自社で作ったサンプルを使います。

1年単位で割合を見直す

取引先の割合は、数か月で大きく変わるものではありません。新しい取引先ができても、最初は小さな注文から始まるのが普通です。半年や1年ごとに最初に作った表を更新し、上位1社の割合がどう変わったかを確かめてください。

あわせて、新しく始めた仕事に利益が残っているかも見ておきます。売上の柱を増やす目的は、取引先の数を増やすことではなく、どこか1社の事情で工場が揺らがない状態を作ることです。続けられる仕事を一つずつ増やしていけば、数年後には取引先との話し合いの立場も、仕事の選び方も変わってきます。

まずは今日、直近1年の売上を取引先ごとに並べるところから始めてみてください。


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